この部屋は、いつからこんなに歪んだのだろう。
時計の針は動いているのに、時間は前に進まない。
カーテンの隙間から漏れる光が、昨日なのか今日なのかも分からない世界をぼんやりと照らす。
私はここにいて、でも確かにいなかったこともある。
昨日の出来事が、何年も前の記憶と絡まり合って、私の頭の中でぐちゃぐちゃに溶けていく。
思い出そうとするたびに、記憶は煙のようにすり抜ける。
布団にくるまりながら目を閉じると、誰かの声が聞こえた気がする。
「元気?」と訊ねられたような気がした。
でも、それは昨日の夢だったのか、それとも何年も前に聞いた声なのか、判然としない。
ただ、涙が頬を伝った。
それだけは現実だった。
うつ病というものは、単に「気分が落ち込む」というレベルではない。
私にとっては、時間と空間の感覚をも曖昧にする、まるで精神の地震のようなものだった。
震源地は自分の脳のどこか奥底にあって、余震が日常を容赦なく襲う。
今日が何日か、いまが朝か夜か、すら分からなくなる日々が続いた。
朝起きて、ではなく、目を開けると天井があって、それだけで一日が始まる。
起きる理由がない。
食べる気力もなく、風呂に入る意味も見出せない。
携帯にはメッセージが溜まっていくが、返す気力はまったく湧かない。
連絡を絶って、何日が経ったかも分からない。
「あの人」に返信したっけ?それともまだだった?そんな些細なことさえ、頭がもやの中に沈んでしまって、掘り起こすことができない。
ある日、突然、昔の光景が浮かんだ。
高校の教室、窓際の席、友人たちの笑い声。
まるで昨日のことのように鮮明に思い出される。
だがそれは、今の現実とはまったく関係のない、時間の彼方にある幻だ。
なのに、脳はそれを「今」と錯覚する。
部屋の中にいるはずなのに、なぜか教室の空気のにおいがする。
こんな風に、過去が現在に侵食してくる。
まるで記憶と現実の境界が溶けて、混ざり合っていくように。
気がつけば、テレビはつけっぱなしで、内容はまったく頭に入ってこない。
BGMのように流れていくニュースやバラエティー番組の音声が、私の世界にまったく干渉してこない。
画面の中の人々は生きているのに、私は生きていない気がする。
生きているふりをして、ただ酸素を吸って吐いているだけ。
そんな感覚だ。
ベッドの上から、何度も「助けて」と心の中で叫んだ。
でも声は出ない。
誰かに聞かれるのが怖いのか、あるいは誰も聞いていないと知っているからなのか。
この部屋は密閉されている。
私の声も、私の気配も、どこにも届かない。
この孤独は破られることがない。
そして、また記憶が割り込んでくる。
小学生の頃、初めて作文で賞をもらった日のこと。
あのときの私は、未来に希望を持っていた。
何かになれると信じていた。
けれどその希望は、どこで落としてしまったのだろう。
拾おうにも、もう場所が分からない。
落とした瞬間の記憶もあいまいだ。
ただ、「あの頃はよかった」という思いだけが、胸の奥に鈍く残っている。
うつの底にいると、「いま」が失われる。
「昨日」も「明日」も信じられなくなる。
ただ、「いつか」がぐるぐる回って、自分の内側を擦り減らしていく。
誰かが言った。
「大丈夫、時間が経てば少しずつよくなるよ」と。
でも、時間とは何だろう? 私にとっての時間は、もはや直線ではない。
ぐにゃぐにゃに歪んだ、無限ループのようなものだ。
同じ日が繰り返されるような感覚。
目覚めて、絶望して、また眠る。
それの繰り返し。
この部屋で、私は溶けていく。
自分のかけらが、床の隙間や押し入れの奥、古びたぬいぐるみの中にまで入り込んで、散らばっていくような感覚。
拾い集めても、元の形には戻らない。
私の心は、もう以前の私ではない。
壊れたのか、変質したのか、あるいはただ、消えてしまったのか。
それでも、時おり、不意に風が吹くように、ほんの少しだけ意識が澄む瞬間がある。
記憶が落ち着いて、現実が輪郭を持ち始める。
そして私は、まだここにいると感じる。
その瞬間だけは、「いま」が確かにあると感じる。
でも、それは儚い。
すぐにまた靄に覆われて、何もかもがぼやけてしまう。
私は今日も、この部屋の中で、記憶と現在が混ざり合う中にいる。
地獄のような日々。
けれど、それを記すことで、少しでも自分の存在を確認したい。
たとえ誰にも読まれなくても。
誰かに届かなくても。
これは、私が私であるという、かすかな証明だから。
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医師にタンパク質を摂りなさいと言われたので。
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私の時にこれらを利用してたら、また違った人生だったかもしれない。
ひとりではどうにもならない時あるよね
私は大変だったんだ