
―――生きている意味が崩れた日―――
その日は、特別な出来事があったわけじゃなかった。
誰かに殴られたわけでも、何かを失ったわけでもない。
ただ、朝起きた瞬間に、胸の奥で何かが音もなく崩れた。
これまで必死に積み上げてきた「理由」が、
砂の城みたいに一気に崩れ落ちた。
家族のため、将来のため、約束のため。
どれも言葉としては残っているのに、
心に届かない。重さがない。支えにならない。
「だから生きているんだ」と言い聞かせようとすると、
その声がひどく空虚に聞こえた。
まるで他人のセリフを棒読みしているみたいだった。
何を見ても意味が立ち上がらない。
朝日も、食事も、時間が進むことさえも、
ただ現象として流れていくだけ。
自分だけが世界から切り離され、
理由のない存在として放り出された感じがした。
一番きつかったのは、
「意味がなくても生きていい」と思えなかったことだ。
意味がなければ、存在してはいけない気がした。
役に立たない、希望を持てない、前を向けない。
そんな自分は、
この世界に置いておく価値がないように思えた。
それでも、時間は止まらない。
意味が崩れても、心が空っぽでも、
呼吸だけは勝手に続く。
その事実が、残酷で、同時に奇妙だった。
生きる意味が壊れた日。
それは絶望の底でありながら、
「意味なしでは生きられない自分」を
はっきりと突きつけられた日でもあった。
まだ答えはない。
立て直し方もわからない。
ただ、崩れたままの瓦礫の中で、
今日も息をしている。
意味はないかもしれない。
でも、この崩壊を感じているこの感覚だけは、
確かに、ここにある。