
うつ恐怖の館 2
――また、あの館に戻ってきてしまった。
気づけば、同じ場所に立っている。
黒く湿った床、どこまでも続く廊下、重く閉ざされた空気。
外に出たはずだったのに、気がつくとここにいる。
「出口は、なかったのか……」
声に出したつもりなのに、音は壁に吸い込まれていく。
自分の存在すら、ここでは曖昧になる。
ギィ……と音を立てて、ひとつの扉が勝手に開いた。
中は、薄暗い部屋。
中央に置かれた椅子に、誰かが座っている。
近づくと、それは“自分”だった。
目は虚ろで、焦点が合っていない。
口元だけがわずかに動く。
「どうせ無理だろ」
低く、冷たい声。
それは自分が何度も何度も心の中で繰り返してきた言葉だった。
振り返ると、扉は消えている。
逃げ場はない。
部屋の壁には無数の文字が浮かび上がっていた。
「価値がない」
「迷惑だ」
「消えたほうがいい」
そのひとつひとつが、心をえぐる。
「違う……」
否定しようとしても、声が出ない。
体が動かない。
ただ、座っている“自分”がこちらを見ている。
そして、ゆっくりと立ち上がった。
「お前が思ってることだろ?」
一歩、また一歩と近づいてくる。
逃げたいのに、足は床に縫い付けられたように動かない。
呼吸が浅くなる。胸が締めつけられる。
「ここからは、出られない」
その言葉が響いた瞬間、部屋の明かりが完全に消えた。
――暗闇。
何も見えない。
でも、すぐそばに“何か”がいる気配だけは、はっきりとわかる。
耳元で、囁きが聞こえた。
「まだ続くよ」
その瞬間、足元が崩れ落ちた。
底のない闇へ、落ちていく。
終わりのない、うつの底へ――。