
うつ恐怖の館 5
扉は、昨日よりも重くなっていた。
いや、違う。重くなったのは、自分のほうだ。
館の中に入ったはずなのに、外に出た記憶がない。
それでも毎朝、「また入ってしまった」と感じる。
ここは終わりのない場所だ。
廊下は静まり返っている。
足音だけがやけに大きく響く。
その音すら、自分を責めるように聞こえる。
――まだ生きてるのか。
壁にかかった鏡を見る。
そこに映っているのは、自分のはずなのに、どこか違う。
目は濁り、表情は消え、
ただ「存在しているだけの何か」が立っている。
「これが、自分…?」
問いかけても、返事はない。
館の中では、どんな言葉も吸い込まれて消える。
奥の部屋から、かすかな音がする。
引き寄せられるように近づくと、扉の向こうから声が聞こえた。
「お前なんか、いなくてもいい」
その声は、誰かのものじゃない。
自分の中から、何度も聞いてきた声だ。
扉を開ける。
そこには、何もない。
ただ、暗闇だけが広がっている。
底の見えない穴のような闇。
気づくと、足が勝手に進んでいる。
吸い込まれるように。
「やめろ」
心のどこかで叫ぶ。
でも体は止まらない。
――どうせ全部、無意味だろ。
その言葉が、最後の一歩を押した。
落ちる。
音もなく、光もなく、
ただ、沈んでいく。
時間の感覚も消える。
自分がどこにいるのかも、もうわからない。
それでも、意識だけは消えない。
苦しさだけが、はっきりと残る。
「終わりたい」
その願いすら、この館では叶わない。
どれだけ落ちても、底には届かない。
どれだけ苦しくても、終わりは来ない。
ここは――
終わらない恐怖の館。
そしてまた、どこかで扉の音がする。
ギィ……
新しい「一日」が、始まってしまった。