朝なのか夜なのか、もうわからない。
カーテンを閉め切ったままのこの部屋には、時間の流れという概念が存在しない。
時計は壁にかかっているが、その針が進んでいるのかどうかも気に留めなくなった。
気がつけば、ただ布団に沈み込んで、天井を見つめている。
目を開けていても夢を見ているようで、夢の中でもこの部屋にいる。
現実と幻覚、過去と現在が、じわじわと溶け合っていく感覚に、私はもう自分を見失っている。
ふと、母の声が聞こえた気がした。
昔、風邪をひいたときに隣で水を差し出してくれた、あの優しい声。
「大丈夫?」というその一言が、頭の奥にこだました。
でも、それは幻だった。
確かに耳元で囁かれた気がして、私は布団を握りしめて涙を流した。
現実には存在しないぬくもりにすがりつくしかない。
今の私は、過去の残像にすら救いを求めてしまっている。
この部屋には、私の時間が止まった瞬間がいくつも転がっている。
あのノート、開きっぱなしのままのカレンダー、読みかけの本、返しそびれた手紙。
どれもが、「生きるつもりだった私」の痕跡だ。
けれど今の私は、その痕跡にすら触れられない。
ノートを開こうとすると手が震える。
本を読もうとすれば言葉が歪んで見える。
思考の糸が途中でプツリと切れて、ただ放心したまま時間が過ぎていく。
最近、昔の記憶が突然フラッシュバックすることがある。
教室のざわめき、黒板のチョークの音、誰かの笑い声。
幸せだった頃というよりは、「ちゃんと存在していた頃」の記憶だ。
自分が社会と繋がっていた証のような場面が、唐突に浮かび上がる。
そして同時に、今はそのどれにも属していないという実感に、胸をえぐられる。
あの頃の私は、もうどこにもいない。
昼か夜かわからないまま、私はこの部屋で朽ちていく。
誰にも見られず、誰にも求められず、ただ沈んでいく感覚。
扉を開ければ世界があるのかもしれない。
でも、足が動かない。心が動かない。
誰かに手を引かれても、もうその力すら信じられない。
助けてほしいのに、助けてほしいと言う声すら出せない。
窓の外で誰かが笑っている。
小さな子どもの声。
その笑い声が、まるで別の世界から聞こえてくるようで、私には届かない音だった。
世界は動いている。
季節も、時間も、人も、生きている。
でも私は、この部屋で止まったままだ。
溶けた時計のように、私は「今」という現実からすり落ちていく。
「これが自分だ」と思える軸が崩れた瞬間から、人は壊れていくのかもしれない。
私の名前、年齢、肩書き。それらがどんどん薄くなって、自分が誰なのかがわからなくなる。ただ「苦しい」という実感だけが残り、それ以外のことは何も掴めない。
苦しさだけがリアルで、それ以外は全部夢のようにぼやけていく。
食べ物の味がしない。
音楽も響かない。
言葉が心に届かない。
そんな状態が何日も、何週間も続いている。
ときどきSNSを開いてみるけれど、みんなが明るく笑っているその姿がまぶしすぎて、すぐに閉じてしまう。
私はその明るさに焼かれてしまう。
羨望や嫉妬というより、そこに属せないという絶望だ。
誰かと話したい。
けれど、何を話せばいいのかわからない。
話すべき言葉が頭に浮かばない。
ただ「苦しい」とだけ伝えても、それは相手にとって重すぎるとわかっている。
だから黙るしかない。
沈黙はさらに孤独を深める。
それでも、話すよりはまだマシだと思ってしまう自分がいる。
この部屋は、まるで私の心そのものだ。
光が遮断され、空気は淀み、時間が歪み、記憶と現在が混ざり合っている。
現実感を失ったこの空間で、私はただ息をしているだけだ。
生きているとは言えない。
ただ、「死んでいない」というだけ。
それでも、私はここにいる。
朽ちても、溶けても、まだここにいる。
願わくば、この日記を誰かが読んでくれることを。
誰かがこの苦しみの痕跡を感じ取ってくれることを。
ただ、それだけでも、この地獄の中に意味があると思いたい。
——ここは、記憶と現在が溶ける部屋。
そして私は、そこに取り残された亡霊のように、生きている。
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
↑今回もクリック応援お願いできませんか。
生きる励みになります。
よろしくお願いいたします。
うつ病をより多くの皆様に知っていただけたらと思います。
下段よりシェアしていただけたら嬉しいです。
#️⃣生きた記録病気怪獣と戦うウルトラマンになった3歳児
小児がんと難病の子から元気をもらう
良かったら読んでいただけたらと思います
少しでも生きる力をみいだせれば幸いです
https://note.com/reimi_tutu/n/nba0d2059f547
医師にタンパク質を摂りなさいと言われたので。
広告
私の時にこれらを利用してたら、また違った人生だったかもしれない。
ひとりではどうにもならない時あるよね
私は大変だったんだ